福岡高等裁判所 昭和25年(う)376号 判決 1950年9月14日
控訴人 被告人 河村春吉
弁護人 堤千秋
検察官 坂本杢次関与
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中百日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人堤千秋の控訴趣意は末尾添付の書面に記載のとおりである。
控訴趣意第一点について、
原判決摘示の犯罪事実は被告人が原審公判廷において全部自認したところであつて、原判決も之を認める証拠の一つとして被告人の原審公判廷における供述を挙示している。しかし原判決摘示の犯罪事実中(二)の犯罪場所については検証第三三号松本松夫提出の盗難届によれば判示場所と異り山門郡城内村大字茂庵一一番地の同人所有農業小屋内となつておるのみならず、検証第七一号被告人の司法警察員に対する第一回供述調書によるも略々同趣旨の供述記載があり、又(八)の犯罪場所については検証第五〇号倉田繁提出の盗難届によれば判示場所と異り山門郡沖端村田町作業場内となつておるのみならず、判示被告人の供述調書によると「同日午後九時頃柳河町椛屋町に来ました処大工小屋が道脇にありましたので何か金目の物はなかろうかと思つて見て見ました処云々」の供述記載があつて、原判決には(二)同(八)の各犯罪場所に付事実の誤認を疑わしめるに足る顕著な事由が認められるのであるが、犯罪場所が原判示(二)の罪につき原判示の如く三猪郡昭代村大字南浜武松本松夫方ではなく同人提出の盗難届にある如く山門郡城内村大字茂庵一一番地の同人所有農業小屋内であるとしても又原判示(八)の罪につき原判示の如く山門郡柳河大字椛屋町倉田繁方ではなく同人提出の盗難届にある如く同郡沖端村田町同人所有作業場内であるとしても犯罪場所の相違点丈で他の犯罪の日時、被害者、被害物件については、起訴状記載事実及び原判決の認定したところと引用証拠との間に差異やくいちがいは認められないから、右の相違点丈では未だ訴因の同一性を害するとも言えないし之がために被告人の利害関係及び量刑其の他判決に影響を及ぼすことはないので、論旨は採用することができない。
控訴趣意第二点について
しかし原判決摘示の犯罪事実中指摘の(一六)の行為と(一七)の所為とは所論の如く場所的且つ時間的に近接してはいるがなお場所的にも差異があり、時間的にも前後の関係があることは記録上明かに認められるところであるから原判決が之を刑法第五四条第一項前段の想像的競合罪とせずに同法第四五条前段の併合罪を以て問擬したことは正当であつて、論旨は採るに足らない。
控訴趣意第三点について
記録全般を検討し彼此考量して見るのに所論のような諸事情を斟酌するも原審が本件事犯に対し被告人を懲役二年に処したことは相当であつて原判決には量刑の不当はないから論旨は理由がない。
その他原判決には破棄すべき事由はないから刑事訴訟法第三九六条に従い本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の中百日を刑法第二一条により本刑に算入し、当審における訴訟費用(国選弁護費用)は刑事訴訟法第一八一条第一項により被告人に負担させることにする。
仍て主文のように判決する。
(裁判長裁判官 石橋鞆次郎 判事 筒井義彦 判事 柳原幸雄)
弁護人堤千秋の控訴趣意
第一点原判決中罪となるべき事実第二は昭和二十四年八月十五日三潴郡昭代村大字南浜武松本松夫方で同人所有の籾三俵時価二千二百円相当を窃取したとあるが検証第三十三号松本松夫提出の盗難届によると山門郡城内村大字茂庵一一番地被害者所有農業小屋内とあつて右判示場所と同一なりや不明であるのみならず、検証第七十一号被告人の供述調書第十一問答によると山門郡城内村の商業学校の南三〇〇米位離れた百姓家の小屋が田圃の中に一軒ありましたので戸が閉めてあつたが鍵がしてなかつたので手で開けて中に入りとあつて前記判示の松本松夫であるか否や不明である。
更に前同第八の事実は昭和二十四年九月二十三日山門郡柳河町大字椛屋町倉田繁方で同人所有の大工道具箱入鋸外五十点時価九千四百円相当を窃取したとあるが、検証五十号倉田繁提出の盗難届によると被害場所は福岡県山門郡沖端村田町作業場内に於てとあつて検証第七十一号被告人の供述調書に於てもその第十七問答に於て同日午後九時頃柳河町椛屋町に来ました処大工小屋が道脇にありましたのでとあるに過ぎないので必しも前記判示場所であるかどうか不明である。右のやうに、罪となるべき事実中重要なる犯罪の場所について重大な事実の誤認があるものと思われる。
(その他の控訴趣意は省略する。)